(2002. 7.24)
(2) 至仏山(2)
[7月 7日(日)] (その2)
[写真1]:ミツバオウレン [写真2]:イワカガミ
[写真1]:ミツバオウレン
至仏山の中腹に掛かると、先程までは見られなかったこの花が至るところで咲いている。
普通のオウレン(キクバオウレン)やセリバオウレンは、もう本当に目立たない花なのだが、
このミツバオウレンはものすごく目立つ。
よく似てはいるのになんという印象の違い。
あっちにも、こっちにも咲いて、どれを写真を撮るかでおおいに悩むところだ。(キンポウゲ科)
[写真2]:イワカガミ
高さ5〜10センチという小ささながら、スカートの先端に細かい切れ込みが入っていて、どうにも芸が細かい。
それでいて鮮やかなピンクだから、さぞかし目立つだろうと思いきや、
地面に張り付くように咲き、時には他の草の根元に隠れるよいにしているので案外目立たない。
たくさん咲いているのに控えめな性格のようだ。(イワウメ科)
[写真3]:シナノキンバイ
[写真3]:シナノキンバイ
信濃金梅と書くが、特に信濃の特産ということではなく、中部地方以北の高山の湿り気のあるところに生える。
キンポウゲ科にはありがちだが、花弁に見えるところは萼片で、本当の花弁は雄しべの外側に目立たないようについている。
この萼片が黄色と言うよりは金色であるために金梅の名がある。
萼片は5〜7枚と決まっていない。(キンポウゲ科)
[写真4]:ミヤマダイモンジソウ [写真5]:タテヤマリンドウ
[写真4]:ミヤマダイモンジソウ
小さな花である。
5枚の花弁の大きさが微妙に異なっている。
上3枚が短く、下側2枚が長く大きい。
この花弁のアンバランスなことから花全体が「大」の字に見える。
だから「大文字草」。
深山に生えるものを「深山大文字草」という。(ユキノシタ科)
[写真5]:タテヤマリンドウ
さすがに5時から歩き始めていると一日の時間がたっぷりとある。
至仏山をずいぶん登ったような気がしてみるのだが、まだ午前7時だ。
タテヤマリンドウは十分に日が射さないと花が開いてくれない。
雨や曇りでも駄目、夜はもちろん早朝・夕方でも駄目というわけだ。
この写真の撮影時刻 07:00。
この時刻で花が開いているというのはよほどの晴天ということになる。
おっ、7月7日7時、スリーセブンだ、ってなんの関係もなかった。(リンドウ科)
[写真6]:約束された晴天 [写真7]:ツマトリソウ
[写真6]:約束された晴天
植物散策をしながら歩いているとついつい下ばかり見て歩いている。
そうすると、絶景の山道を登っていてもすこしも景色を見ていないなんて事もよくある。
そればかりではなく木に咲く花を見逃すなんて事もある。
気をつけなければいけない。
時々思い出しては頭の上の木を見たり、遠くの景色を見たりする。
薄暗いうちに歩き始めたのだが、いつの間にか朝の空に変わっている。
しかもこの上もないくらいの晴天であった。
[写真7]:ツマトリソウ
同じ尾瀬でも至仏山と尾瀬ヶ原はまったく環境の異なる世界だ。
もちろん、植物相が異なっているのは当然のことである。
ところが、至仏山の乾燥した場所と尾瀬ヶ原の湿原というまったく違う環境の両方で見られる植物がある。
先程のタテヤマリンドウ、ウラジロヨウラク、そして、このツマトリソウだ。(サクラソウ科)
※当初、ユキノシタ科となっていました。サクラソウ科の間違いです。すいませんでした。
[写真8]:シラネアオイ [写真9]:サンカヨウ
[写真8]:シラネアオイ
日本特産、一科一属一種。というのがこの植物の話をすると必ず出てくる話だ。
日本特産とういうのは、世界中で日本にしか生えていない植物であるということ。
一科一属一種というのは、分類学上シラネアオイ科という科のなかにはシラネアオイ属という属しかなく、
しかも、シラネアオイ科シラネアオイ属のなかにはシラネアオイというたった一種の植物しかないという意味だ。
つまり、属レベルでも、科レベルでも似ている植物は世界中に無いということだ。
しかし、一科一属一種と書いておいてキンポウゲ科としているいい加減な植物図鑑もある。
シラネアオイは昔はキンポウゲ科に分類されていたことは有名だが、キンポウゲ科には他の属も他の種もいっぱいあるんだから
キンポウゲ科というのなら一科一属一種と書いてはいけない。(シラネアオイ科)
[写真9]:サンカヨウ
シラネアオイと並んで高山植物好きの人のあこがれの的である。
昨年の至仏山でもシラネアオイ、サンカヨウは一株か二株くらいしか遭遇しないくらい珍しい。
こんなのに立て続け(この紀行文の写真は撮影順である)に遭遇したときにどんなに嬉しいか想像できますか?(メギ科)
[写真10]:クルマバツクバネソウ [写真11]:快晴・強烈な紫外線
[写真10]:クルマバツクバネソウ
至仏山(1)の[写真2]、[写真4]でご紹介したのは「ツクバネソウ」であるが、ツクバネソウの葉は4枚なのに対して、
6〜8枚の葉が輪生しているのがクルマバツクバネソウだ。
これが8〜10枚の葉で花に花弁をつけるとキヌガサソウということになる。
キヌガサソウも尾瀬ではやはり今頃咲く花なのだが、あこがれているけど未だに見られない花のひとつだ。(ユリ科)
[写真11]:快晴・強烈な紫外線
登山道は小至仏山が間近に見えてくる頃。
急激に展望がよくなってくる。
高山のお花畑という感じが始まって、花散策も本格的だ。
天気予報には雨の字もあったけれど、こんな青空が見えてくる。
午前8時まであと4分。
そろそろ朝飯にしてもいいかな。
[写真12]:ハクサンイチゲ
[写真12]:ハクサンイチゲ
ハクサンイチゲという名前から容易に想像出来るように、キクザキイチゲ、アズマイチゲ、ユキワリイチゲといった
つまりは、イチリンソウやニリンソウと同じイチゲ(一花類)。
学名アネモネとあるように日本のアネモネ類ということになる。
ただ、印象としてはハクサンイチゲがもっとも花が大きくて目鼻立ちがしっかりしているように感じる。
これが至るところにいっぱい咲いているというのが小至仏山手前のお花畑の光景である。(キンポウゲ科)
[写真13]:シナノキンバイ [写真14]:ハクサンイチゲ
[写真13]:シナノキンバイ
中部地方から滋賀県伊吹山まではキンバイソウ、北海道礼文層にはレブンキンバイソウ、同じく利尻島にはボタンキンバイ、
そして北海道と本州中部以北はこのシナノキンバイだ。
生息地毎にうまく棲み分けをしている。(キンポウゲ科)
[写真14]:ハクサンイチゲ
オヤマ沢田代から小至仏山、子至仏山から至仏山山頂まで、ガイドブックによるとコースタイムは登りで1時間20分となっている。
花散策の立場から言うと、この区間は最初はシナノキンバイ、ハクサンイチゲの群落から始まって
次はホソバヒナウスユキソウやミヤマダイモンジソウ、キバナノコマノツメなどの岩から生える植物に変わる。
それからタカネバラ、オゼソウ、タカネシオガマという植生に変わってゆく。
どう頑張ってもコースタイムの3倍は掛かるというのは花追い人だけであろうか。