(2002. 8.28)
(8) 山の鼻植物研究見本園(3)
[7月 8日(月)] (その3)
[写真1]:ノリウツギ [写真2]:オニノヤガラ
[写真1]:ノリウツギ
湿原そのものには栄養分が無いことと、木を支える地盤がないことで原則として樹木は生えない。
ところが、そこに川が流れ込むと栄養に富んだ土が運ばれてきて川に沿って林が形成される。
これを拠水林という。
尾瀬の拠水林で必ず見られるのがノリウツギだ。(アジサイ科/少し古い図鑑ではユキノシタ科)
[写真2]:オニノヤガラ
無葉蘭。
葉がないということは光合成を行えないということ。
つまりは自分で栄養を作らずに誰かに寄生している。
まあ、それはそれでひとつの生き方だ。(ラン科)
[写真3]:ムラサキコマノツメ
[写真3]:ムラサキコマノツメ
前回の[写真9]と同じスミレだと思う。
なんともスミレ離れした立派な立ち姿じゃありませんか。
花だけをアップで見れば、スミレであることは間違いないのだけれど、
こうして全身像を眺めてみると、今までスミレに対して抱いていた狭いイメージがガラガラと音を立てて崩れ去ってゆく。
そうして自然界を理解する懐がほんの少しだけ深くなる。(スミレ科)
「(7)研究見本園(2)」の[写真9]および、この[写真3]について富山のしおさんから以下のコメントをいただきました。
どうもありがとうございました。
尾瀬のスミレの件は、ニョイスミレ(ツボスミレ)の生態品種で「ムラサキコマノツメ」
学名: Viola verecunda var. vercunda f. violascens です。
花が淡紫紅色をしているニョイスミレをムラサキコマノツメと呼称している訳で、主に湿原地帯に出現します。
尾瀬においては、山ノ鼻の植物見本園〜上田代のヨッピ川沿いの浮島地帯の池塘〜中田代の下ノ大堀沿い〜ヨッピ橋周辺、等と低層湿原〜中間湿原の植生に随伴して出現します。
1ヶ所当りの個体数は植物見本園が多いようですが、尾瀬ヶ原全体に分布していて、それほど珍しいものとは私は思いません。
なお、ミヤマツボスミレ Viola verecunda var. fibrillosa は、標高が高いところの雪田植生(雪が溜まるところに成立する草本植生で、高木は生えない)に随伴して出現、茎は低く倒伏し匍匐して根を出し、[写真3]のように茎が伸び上がることがありません。
[写真4]:レンゲツツジ [写真5]:シラカバ
[写真4]:レンゲツツジ
尾瀬では11月から4月の6ヶ月間が冬。
他の5月から10月の6ヶ月間で、春と、夏と、秋とがせめぎ合う。
秋らしい花が咲いている一方で、春のイメージがするレンゲツツジの赤い花を見ることが出来る。(ツツジ科)
[写真5]:シラカバ
シラカバもまた拠水林では必ず見ることの出来る樹木のひとつだ。
ちょっと枝が折れたのか湿原に倒れ込んでいる。
こんな時は魚眼レンズを取り出して、ぎゅ〜んと迫ってみる。(カバノキ科)
[写真6]:木道のレストラン
[写真6]:木道のレストラン
木道の上に誰かが開いたレストラン。
動物や昆虫に造詣が無いのでレストランオーナーが誰なのか、
レストランのお客さんが誰なのかは分からない。
ただ、ひっきりなしにお客さんが現れることは確かだった。
行列の出来る木道のレストラン。
レストランのオーナーは、キツネなのかイタチなのか。
いづれにしてもごちそうは哺乳類の糞である。
自然界にあるものは必ず誰かが食べる。
そういう完全リサイクルシステムだ。
レストランのお客についてもたくさんの方からご教授をいただきました。
タテハチョウの仲間で、翅の表側のマークが "C" ならシータテハ、"L" ならエルタテハということになるのだそうである。
花追い人にはこれを同定するだけの知識はありませんが、皆様のご教授を総合していちおう、シータテハとしておきます。
その他、ヒカゲチョウ、キタテハなどの名前が出てきました。いろいろと有り難うございました。
余談ですが、このサイトにも花の名前を聞きに来られる方が多いですが、
正直なところ、花の名前をご存じない方が撮影した写真からの同定は困難なことが多いんです。
なんというか、その種を判別するためのポイントのところが写っていないんですね。
そういう意味で、昆虫について知識の無い花追い人の撮影した写真ですから、ポイントは押さえられていないと思います。
それなのにこれだけ多くの方からご教授いただき感謝とともに感激しております。
[写真7]:オゼノサワトンボ
[写真7]:オゼノサワトンボ
一つの花が1センチあるかないかくらい。
小さくて、しかも、緑色。
およそ目立たない植物だが、目が慣れてくると次々と見つかって来る。
トンボソウとはよく名付けたものだ。(ラン科)
[写真8]:ニッコウキスゲ [写真9]:ちょっと失礼
[写真8]:ニッコウキスゲ
大地が黄色く染まるよう大群落もいいし、花一輪のアップもいい。
でも数輪を撮った写真って意外と見かけないかもしれない。(ユリ科)
[写真9]:ちょっと失礼
草の上では昆虫君の繁殖活動中。
ちょっと失礼しました。
[写真10]:ヒオウギアヤメ
[写真10]:ヒオウギアヤメ
アヤメとカキツバタの違いは外花被(花びらのようになった萼片のこと)の中心部の模様が一番分かりやすい区別点だ。
アヤメは綾目(文目)模様。(アヤメ科)
当初アヤメとしていましたが、よく見ると「ヒオウギアヤメ」のようです。
本当は葉を根元の見て、檜扇のように横に広がっていることを確認するとよいのですが、・・・
アヤメの花はもっと内花被が角のように立っていますね。<2003.7.29>
[写真13]:ヒオウギアヤメ [写真14]:ギョウジャニンニク
[写真13]:ヒオウギアヤメ
湿原はカキツバタかノハナショウブという固定観念を持っているとこういうものを見てびっくりする。
アヤメだって湿原の仲で群落をつくることもあるのだ。(アヤメ科)
[写真14]:ギョウジャニンニク
尾瀬ではギョウジャニンジンは拠水林では必ず見られる植物である。
花を見れば分かる通り、ギョウジャニンニクはネギの仲間だ。
もちろんネギと同様の強い臭気がある。
ギョウジャが食べたことからの名前とあるが、なんでニンジンなんだろう?(ユリ科)
[写真15]:ノリウツギ
[写真15]:ノリウツギ
ノリウツギは "糊空木"。中が空洞になった枝(空木)を水につけておくと粘液が出る。
その粘液を和紙を漉くときの糊料にもちいたことからこの名がついた。
ガクアジサイの花びら(ほんとうは萼片)の4枚に対してこれは5枚。(アジサイ科/少し古い図鑑ではユキノシタ科)