花追い人の撮影日記
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花追い人の撮影日記(睦月から如月)
明けましておめでとうございます。本稿も好評のため、待望の第2回を掲載することになりました(その割にはあまり話題になっていないが)。本年もよろしくお願い申しあげます。
「地球が太陽を一回りするのが一年、その始まりはいつであってもおかしくないのに、寒い最中に新年が始まるのは、冬至正月の伝統によるもので、冬至もクリスマスも正月も春に向かって歩き始めた『新しい太陽』を祝う祭りです。」(*1)
さっそく引用からのスタートになったが、一年で最も陽が短いのはもちろん12月22日(2000年は12月21日)の冬至で、この日を過ぎると日毎に陽が長くなって行く。ところが、実際には冬至の後、日の入りが遅くなって行くのは当然として、日の出は逆に少しずつ遅くなってゆく現象がある。この結果一年で最も日の出が遅いのは冬至ではなくお正月の期間になる。つまり、風景写真の定番である日の出を撮影するためには正月が最も楽な(つまり、寝坊しても撮影できる)時期に当たる訳だ。東京の元日の日の出は6時50分、少しでも西に行くか、東方向が山になっているところでは、簡単に7時を超える。このようにお正月は楽に日の出の撮影ができると言う訳。
お奨めの日の出の名所を一つだけ紹介しておこう。箱根の箱根園から駒ヶ岳山頂まで、ロープウェーが結んでいることは有名だ。このロープウェーが元日に限り5時半から臨時運転を行う。いつもは有料な箱根プリンスホテルの駐車場に車を入れる(今は元日でも有料)。ロープウェーの改札を通ると、使い捨て懐炉が配られる。気の利いたサービスだが、これをすぐにあけて暖まってはいけない。万一のトラブルに備えて予備の電池と共にポケットに忍ばせておくのだ。冬の早朝の撮影とあっては、カメラマンとしては電池の消耗には気が回らなくてはいけない。また、基本的には寒いほうへ行くのだから結露の問題は無いが、温度差が烈しいことから機材への配慮は一通り必要だ。予備の電池と共に絶対に忘れてはならないのが小型の懐中電灯だ。暗闇でのカメラの操作、特に裏蓋をあけるフィルムの交換を手探りで行うとシャッター幕を破損する恐れがある。ロープウェーは暗闇の中を早朝の夜景(?)を見ながら駒ヶ岳の山頂へ向けて登って行くが、2本のロープの内左側を登るゲージであれば、富士山との間に障害物が無い。この時は相模湾側の撮影には右側のロープが邪魔になる。右側ならばこれが逆になるので、ゲージ内の場所取りは反対側のロープが邪魔にならない位置を心がけるようにすること。実際にはゲージが動き出すと混雑でゲージ内を移動することは不可能になるからだ。駒ヶ岳山頂は人工雪のそりの広場だから雪がある。靴はスノーブーツが最高だ。日の出は7時ちょうど。相模湾から昇る荘厳な風景だ。手持ちのあらゆるレンズを付け替えながらこの瞬間をフィルムに収める。この瞬間、周りの人から一斉に歓声があがり、見ず知らずの人同士新年を祝福しあう。日の出、シャッター速度が1/20からいきなり1/750となる。劇的な光の変化だ。朝は空気が澄んでいるから富士山は勿論、相模湾を超えて房総半島、伊豆半島、伊豆大島、初島、駿河湾までが手に取るようによく見える。それから箱根神社元宮へ初詣。再びロープウェーで下山し、朝風呂にゆっくりと入って、寒さで感じなくなっている感覚を少しづつ呼び戻す。これでいい年にならない訳がない。
さて、1〜2月は花追い人としては、花の最も少ない季節に当たり、大変つらいシーズンなのだが、この時期の花をいくつか紹介しておこう。
1月下旬になるとネコヤナギの銀色の芽が春の予感を告げる。黄色い雄しべの目立つ花はもう少したってからだ。コブシやモクレンの花芽も銀色に輝く。これらのつぼみはみんな揃って北側を向いているのでこんなことに目を向けた撮影も面白いだろう。
2月上旬にはたいてい雪が降る。石神井公園のカモたちも降り続く雪にこころもち寒そうであった。雪は地上のあらゆる物を美しく化粧しなおすので、フィルムがいくらあっても足りないくらいだ。一方、同じ頃に千葉県の外房あたりまで行くとすっかり春。とまどうばかりだ。太海フラワーセンターでは、ポピー、ストック、パンジー、クリサンセマム・ノースポール(白い小菊)、キンセンカ、ナノハナなどが花盛りで冬を忘れて、ここだけが別世界になったようだ。
湯島天神の梅は2月中旬ころ、受験シーズンとあって学問の神様は遠くからの中学生・高校生の合格祈願でにぎわう。朝はやくから露天が並び、受験生相手の商売が始まる。
梅と言えば絶対にお奨めなのが、皇居東御苑。ここは都心も都心、地下鉄大手町と竹橋を降りた真前である。梅は竹橋の毎日新聞社前の平川門から入って坂を上ったところだ。本数が多いわけではないが、手入れがよく、紅白のバランスがちょうど良い。また、皇居の石垣をバックにした梅は他では見られない風情だ。梅に鴬と言いたいところだが、鴬は滅多に姿を見せない鳥だ。そういえば花札に描かれている鴬はどう見てもメジロのようだ。花粉を狙ってメジロが頻繁に現れるので良い被写体になる。
案外知られていないが、ここでは2月下旬になるとシナマンサクが見事に咲くことだ。こちらは、大手門から番所の前を抜けて左、上り坂がカーブするところにたった1本だが見事な枝振りのシナマンサクがある。ほとんどの人が通り過ぎるが、この1本の木の満開を狙って今年で4年目になる。このころは、ツバキの花や開花直前のミツマタやジンチョウゲを撮影している人もいる。この他、皇居東御苑は4月半ば過ぎのツツジ、5月末から6月半ばのサツキとハナショウブ、夏のフヨウやアサザ等、いつ行っても何らかの被写体があり楽しむことが出来る。入場無料は大賛成である。
上野公園東照宮参道の寒ボタンの展示会は2月中旬頃が見頃である。わらぼっちに雪でも降ったら最高である。寒ボタンは春のボタンの様な豪華絢爛といった風情は無いけれど、可憐、上品、つつましやかでいい花だ。しかしながら入場料800円はちょっと高い。
お正月のイメージの強い福寿草は、別名元日草。旧正月にあたる2月の中旬が見頃だ。こちらも雪が似合う花だ。福寿草で絶対にお奨めなのは赤塚植物園。小さな植物園だが、板橋区の花のニリンソウとこの福寿草の盛りは斜面いっぱいに花を敷き詰めたように咲き本当に見事だ。こんなに近くに住んでいながら案外知らない人がいるのは残念なことである。
(*1) 倉嶋厚 "四季のたより−忘れかけた季をたずねて−"
1991 丸善 p.6
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